学校法人 南山学園 南山高等学校・中学校女子部Nanzan Girls’ Junior & Senior High School

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朝のこころ(2022年7月1日)

2022.07.13News

7月1日、赤尾神父様による「朝のこころ」です。

2022年7月1日 朝のこころ 「出会いのとき」

図書館から出された今月の『としおくんのつぶやき』の中で、塩野七生著『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』が紹介されていたので、30年以上前のことを思い出しました。

中学入学時から学校の敷地内で寮生活をしていた私は、夏休みに帰省すると、普段はなかなか行けない書店に毎日通うのを楽しみにしていました。日課のように近所の書店の中を歩き回っていていつも気になっていたのは、新潮文庫の棚に並んだ『コンスタンティノープルの陥落』、『ロードス島攻防記』、『レパントの海戦』という、塩野さんのいわゆる「海戦三部作」でした。文庫本の、濃い緑の背表紙になぜか引きつけられながら、「七生」という著者の名前の読み方さえ分からなかった私は、その著者の姿を勝手におじいさんの大学教授として思い浮かべて、「どうせ歴史的な出来事だけを順番に書きつらねたような退屈な本なんだろう」と、本を手にすることはありませんでした。それでも、書店を訪れる度に私の目はこの三冊を視界に捉え、ずっと気にし続けていました。

意識しながらもあえて触れないようにしていたので、勝手にハードルが上がり続けてなかなか読んでみる気にはならなかったのですが、3年ほど経って高校生になっていたある夏休み、何の気の迷いだったのか、ふとこの3冊のうちの『ロードス島攻防記』を手に取り、最初の数ページを立ち読みしました。驚いたことに、その本は、私が何年も想像し続けてきたようなものではありませんでした。小説の冒頭の、船に乗り込んでいた若者の描写がすごく生き生きとしていて、甲板で潮風に吹かれながら遠くを眺めている青年がイメージとして頭に浮かぶほどで、この文章は学者のおじいさんではなくて女性の作家の手によるものだ、という妙な確信を得た私は、巻末の解説部分を開き、自分の感覚が正しかったことを知ってうれしくなりました。それからこの三部作を購入し、以来、塩野さんの他の著作も好んで読みました。

もし私が中学生の早い段階でこの本を手に取っていたら、十分におもしろさが理解できなくて、二度と塩野さんの作品を読むことはなかったかも知れません。文庫本を見かけてから数年経ち、私自身の受け入れ態勢が整った時だったからこそ、おもしろく感じ、興味を持つことができたのでしょう。

本との出会いもそうですが、人との出会い、物事との出会いも同じだろうと思います。ある時点ではたまたま上手くいかなかったり、自分が未熟であるから受け入れられなかったり、理解できなかったり、失敗したりするかも知れませんが、時間が経ってそれがよい出会いに変わることもあります。まもなく1学期が終わろうとしていますが、新年度になって、あるいは入学してみて、思い描いていた期待や理想の通りにいかなかったこともあるでしょう。けれども、それは永遠に取り返せない失敗・損失ではありません。まだまだがっかりして諦めるには早すぎます。もしかしたら明日、あるいは数ヶ月後、数年後、もしくは数十年後には、同じ事柄がまったく違ったものとして感じられるかも知れません。その来たるべき未来の出会いのために、どうぞ「いま」のあり方を大切にしてください。

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